団員の声(感想文)
日本にもらった愛を忘れてはならない
産經新聞社 頼永博朗
縁あって、13回目となる日華(台)親善友好慰霊訪問団の旅に、取材という形で同行致しました。
恥ずかしながら同行取材のお話をいただくまで、台湾について深い関心を持ったことはほとんどありませんでした。高校時代の世界史の授業でもアジアの近現代史というものをしっかりと教わった記憶はなく、強いて挙げれば、台湾は「安・近・短」の海外旅行先という程度の感覚しか持ち合わせていなかったというのが、正直なところです。
それだけに、今回初めて台湾を訪れ、行く先々で今も息づく「日本精神」や、親日感情に触れることができ、これらは台湾の一側面に過ぎないのでしょうけれども、貴重な体験となりました。
実は、出発前に少し不安を抱いていました。と言いますのは、こうした取材の際には、連載記事をどのように展開するかについて一定の構想をまとめた企画書をあらかじめ作っておくのですが、今回はそれができなかったからです。
書く内容を具体化できれば必然的に取材対象者も決まりますし、逆に取材対象者が決まっていれば必然的に書く内容も決まります。つまり、こうした同行取材の連載記事は、よほど現地で突発的な出来事がない限り、通常であれば出発前にある程度出来上がっているといってもいいでしょう。
ところが、小菅亥三郎団長が、宝覚寺での慰霊祭を引き合いに出し、「(台湾側には)式次第がなく、いい意味でおおらかと考えてください」と移動バスの中で話されたように、現地での展開がほとんど予測できませんでした。また、現地での取材対象となり得る人の素性が事前にほとんど分かりませんでした。さらに、前年の訪台の様子を記録、放送したスタジオ日本「日曜討論」の模様をインターネットのUSTREAMを通じて出発前に拝見していたものの、各訪問先で行う慰霊式は、国旗拝礼、君が代斉唱、献花などほぼ同様の繰り返しであるため、原稿や写真にどう変化をつけてよいものか悩んでいました。事前にリサーチできたことといえば、各訪問先の歴史的なストーリーくらいで、あとは、蔡焜燦氏の著書「台湾人と日本精神」と、黄文雄氏の著書「台湾は日本の植民地ではなかった」などの書籍に目を通す〝にわか勉強″でした。
こうして筋書きのないまま現地入りしたわけですが、そのモヤモヤとした思いに光を射し込んでくれたのは、初日に訪れた「高砂義勇兵」の英霊記念碑で訪問団を出迎え
「私は日本人だと思っています」
と、訪問団を前にあいさつした際のアベオさんの言葉です。日本統治時代の教育を受けた台湾の方の中に、今もそのように考えていらっしゃる方がいるのだという事実に向き合い、胸が熱くなりました。アベオさんのこの一言によって、連載記事の方向性と軸足が定まったといえます。
アベオさんには、土産物店前のベンチに座りながら、1時間近くお話をうかがったでしょうか。流暢な日本語で、日本に対する思いを語ってくれました。中でも、日本軍人として出征した2人の兄、そして英霊記念碑の建立に尽力された姉のリムイ・アベオ(周麗梅)さんから、「日本にもらった愛を忘れてはならない」といつも言い聞かされていたという逸話は、心に響きました。台湾の教育やインフラを整えたのは日本であるととらえ、今も日本を大切に思う人がいるのだという事実。その後、行く先々で台湾の方からうかがったお話は、合点がいくものとなりました。
一方、アベオさんのように日本語を話せることができ、日本統治時代の歴史や出来事を語れる人が、高齢化のために少なくなってきていることは、時代の流れとはいえ、残念なことです。宝覚寺で毎年11月25日に開催され、訪問団の最大の目的である「大東亜戦争旧日本軍台湾軍人・軍属大慰霊祭」の主催団体、台湾台日海交会も、同様の事情を抱えていることでしょう。
アベオさんはまた、こんな心配もしていました。
「日本の優れた教育と道徳によって生活は向上しましたが、台湾の若者の道徳観念がなくなってきていることが気がかりです」
日本にも同じことが当てはまるかもしれません。
79歳のアベオさんは、時間をつくっては、地元の若者に日本語を教えるようにしているそうです。英霊記念碑を訪れる日本に対し、民族の武勲を語り継いでいってほしいとの願いがあるからです。そして、日本語を知ることで道徳観念を取り戻すきっかけにしてほしいと考えているようにも、私には思えました。
今回の同行取材に際し、小菅団長をはじめ団員の皆さまから、さまざまなご教示をいただきました。連載に登場していただいた中島公明さん、木下嘉平さんには、しつこい質問にもかかわらず、快くお付き合いいただきました。黄楷棻さんには、訪問先で、ややこしい話のやり取りにもかかわらず、根気強く通訳をしていただきました。五郎丸浩さんには、膨大な枚数に上る写真の整理でお忙しいところ、連載記事に掲載する写真を提供していただきました。団員の皆さまのおかげをもちまして、5回にわたる連載記事を九州・山口版に無事、掲載することができました。この場を借りて、お礼申し上げます。ありがとうございました。
第13次 団員の声(感想文)全22件
- 凡生を我國に禀くるもの 誰かは國に報ゆるの心なかるべき(谷尾侃)
- 日本人よ台湾に学べ(日高誠)
- 保安堂で結ばれた不思議な縁(松俵義博・松俵茂子)
- 日台は深く地下水でつながっている(永田昌己)
- 「恥ずかしい」と「感謝」の訪問(田中道夫)
- 日本にとって真の友人である台湾(金澤明夫)
- 正に、台湾国あげての、慰霊団受け入れ態勢作りに感謝(下田健一・下田純子)
- ご慰霊の旅に終りはない(日吉淳治・日吉悦子)
- 台湾は日本にとって大切な絆で結ばれた国(中島公明)
- 慰霊訪問は日本を代表する事業(岩本宣善)
- 一度行けば再び訪れたくなる台湾慰霊の旅(佐護美和子)
- 台湾の人たちとのもっと深い心底からの交流を求めて(小濱善和)
- 初年兵の時台南で任務していた叔父に代わって(森下学)
- 念願適った六氏先生墓(古賀誠)
- 宝覚寺に響く「鎮魂の譜」の音色(中村哲)
- 謙虚に学び合い助け合う(小野正明)
- 日本と台湾は精神的には名実共に一国という実感(永石辰郎)
- 戦争がこんなにも身近な旅(石原一二三)
- 台湾に散華の御霊一万余祖国の平和に生きる人待つ 台湾で最も愛される日本人、八田與一を訪ねて(木下嘉平)
- 終戦時まで日本の臣民であったことの誇り(三好誠)
- 馬政権も無視できない慰霊大訪問団へ(反田邦彦・反田由美子)
- 日本にもらった愛を忘れてはならない(頼永博朗)