八田與一紀念館

エピソード - 台湾で最も愛される日本人技師 八田與一

八田與一と烏山頭ダム

台南市の北東35キロ、車で約40分の所に烏山頭水庫というダムがある。台南市周辺には、約30万ヘクタールの嘉南平野がある。ダムが出来る前は、雨季には集中豪雨の度に氾濫し、乾季は水不足になり、作物はほとんど育たない土地だった。

日本統治時代、台湾総督府の指示により八田與一はここに灌漑用水を供給し、嘉南平野を優良農地にしようと計画を立てた。八田技師はこの灌漑治水事業の計画、設計、施工監督の指揮を一貫して執った。

このダムは大正10年(1920)に着工し、10年の歳月を要して昭和5年(1930)に完成した。ダムは堤高56m、堤長1273mのアースダム(土堰堤)である。日本ではあまり例のない長いダムで、貯水量は1億5千万トンで、15万ヘクタールの農地の灌漑を主目的に作られた。この灌漑排水施設は、ダムの他に、ダムからの用水路総延長1万㎞と排水路6千㎞にも及ぶ膨大なものである。ちなみに万里の長城の7倍に当たるといわれている。これら灌漑排水施設は総称して嘉南大圳と呼ばれている。現在は、灌漑用水の他、台南市の上水道及び工業用水に使用されている。八田技師の偉大さはこれにとどまらず、完成させたダムの水では嘉南平野全体を潤すことが出来ないので、平野を3等分して順番に給水し、それぞれ栽培する農作物を水稲、甘蔗、雑穀と変えるという3年輪作給水法によって全農民が恩恵にあずかれるように指導した。

ダムの横には八田技師の銅像と、ご夫妻のお墓が水面を見下ろすように静かにたたずんでいる。記念室(資料館)には業績に関する資料や私物が展示され、日本語の解説ビデオも放映されている。日本ではあまり知られていない八田技師は、台湾では歴史教科書にも登場し、故郷の金沢でも「パッテンライ!~南の島の水ものがたり」というアニメが製作された。

(文章:五郎丸浩/第20次結団式)

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